2月の兼題「早春」
- Junko Mezaki
- 2023年2月6日
- 読了時間: 2分
更新日:2023年2月6日
2月の兼題 朱胤さんに出していただきました=================
兼題の提案 「早春」
この三年世界中で猛威をふるったコロナ禍もそろそろ下火だろうか。丁度少し伸びてきた日照時間に希望の兆しのようなものを感じなくもない。そんなことを考えていたら或る映画のことが頭に浮かんだ。まとまりがないかもしれないが、以下書きつけてみます。
昭和三十年代、テレビが普及するまで娯楽といえば映画だった。たいていの日本人は少なくとも週に一回は家族で映画館に足を運んでいたのではないか。我が家は両親が西洋かぶれだったせいか見るのはたいてい洋画だった。時間が流れ、大人になって
から往年の洋画の名作を見ると、記憶の深部からある光景が蘇り、目の前のスクリーンと一致することがあった。映画の題名もストーリーもわからない幼いときに親と見た一本だったのだと初めて知る。そういうことが一度ならずあった。
逆に邦画に関してはこのように深く身に染み込んだ記憶も、満腔の懐かしさとともに思い出すひいきの俳優も殆どない。だから、古い日本映画、特に小津安次郎が世界で高く評価されているのを知ったのも、その諸作品を見たのも、中年にさしかかる年齢になってからであり、それも日本でではなくフランスに暮らしているときだった。
パリでは年に一回か二回はどこかの名画座で小津特集をやる。そうした機会に或る日「早春」を見た。主人公は池部良と淡島千景演じる夫婦。夫が同僚(岸恵子)と浮気して夫婦関係は危機に陥る。別居。夫の地方への転勤。映画の終盤、妻が夫の赴任先に合流、和解にたどり着いたところで幕が閉じる。
題名「早春」は「Printemps précoce」と仏訳されていた。だが、この仏語は「例年より早く来た春」を意味し、「早春」の訳として正確ではない。早春とは、まだ冬の寒さが残る中かすかに春の兆しの感じられる時期を意味する。再出発する夫婦の、再び見いだされた、しかしまだ心もとない希望を象徴しているのだろう。この作品を俳句に見立てるなら「早春」はまさしく季語であり主題である。仏語題名は原題と作品テーマとの間の象徴関係を逸してしまった。夫婦がおずおずと「早春」を見つめているシーンで物語は終る。
というわけで、「早春」を今月の兼題として提案したいと思います。
末永朱胤
シスターズのひとこと(松子より)========================
童謡にたくさん春の歌があります。
「春よこい」「春の小川」「どこかで春が」
この頃、冷たい風の中で、マスクの中で、小さな声で歌っています。
春が待ち遠しいです。
松子
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投句をお待ちしております。
◆投句締め切りは2月15日(水)です。投句数は3~10句。
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